せっけん作りやドッグアロマテラピー、犬との生活から
感じたこと、学んだことなどを綴りました。
お役立ち情報とともにお届けします。

 
動物たちの命と幸せ
2006/3/10


 犬を愛する多くの人たちにとって、彼らとの生活は本当にかけがえのないものでしょう。まさに幸せを運んでくれる犬たち。でも、幸せな生活の裏側には悲しいこと、つらいことも多くあります。愛犬との別れ、なくならない動物虐待のニュース・・・。わたしにも忘れられない犬たちがいます。心の痛い小さな思い出です。

 まだ今の仕事に就く前、通勤途中の最寄り駅でのこと。朝、たくさんの人たちが足早に駅へと向かっていく中、初めてその犬を見つけました。散歩中と思わしきおじいさんのあとを、痩せた雑種の犬がトコトコついて行きます。首輪もリードも付けず、なんて大胆に散歩させているのだろうと思いながら、わたしは仕事に向かいました。
 数日後、また同じ場所にその犬がいます。女子高生の後をついて歩いていましたが、彼女たちがバスに乗ると、もとの方向へトコトコと戻っていきます。あれ?捨てられたのかな、それとも迷子になって飼い主を探しているの? どこをねぐらにしているんだろう、食べ物はどうしているのかしら。無性にその犬が気になり始めました。
 数週間後、またあの犬が朝の駅に・・・。行きかう人のあとをついて歩いては顔を覗き込んでいます。「あなたはわたしを助けてくれる?」と、聞いてまわっているように見えました。そしてわたしの所にも・・・。やっぱりそうだ、自分を迎え入れてくれる誰かを探している。でも、わたしはそのとき負けました。仕事に遅刻するわけにいかない。保護するなら家族にも言っておかなきゃ、すでにうちには犬がいるし・・・。そんなことが頭を駆け巡り、仕事に向かってしまったのです。時を同じくして、探し犬のビラが近所に張られました。写真はあの犬に似ています。さっそくわたしは飼い主さんに電話して、駅にいる犬のことを伝えました。でも残念ながら違う犬。ところがその飼い主さんは駅の犬の噂を知っていらして、引き取りたいと申し出ている人もいるという喜ばしい情報をもたらしてくれました。翌日からわたしは首輪とリードを持って通勤するようになりましたが、あの犬と二度と会うことはありませんでした。
 なぜあのとき、わたしは手を差し出してあげなかったのだろう。あの子は迎えてくれる家族にめぐり合えたのでしょうか。それとも畜犬センターに送られてしまったのでしょうか・・・。

 やはり、通勤途中でのこと。あるお宅の庭に雑種のオス犬が飼われていました。砂利敷きの庭には、背の低い木が1本とボロボロの犬小屋が1棟。その犬は暑い日も寒い日も、隙間だらけの汚い犬小屋の中にうずくまっていました。雨の日はムレて、ぷ~んと臭いニオイが漂ってきます。いつの間にかわたしは、その家の前を通るたび、彼に声をかけるようになっていました。家の人はあまりかまってくれないらしく、上目遣いの目には覇気がなく、呼びかけても反応がありません。でも、「おはよう」とか「元気?」とか、勝手に呼びかけているうち、彼が犬小屋から出てくるようになったのです。最初の声かけから数ヶ月たってのことでした。やがて小屋から出てわたしを待つようになり、柵ごしに鼻を押し付けてきたり、手を出したりするようになりました。まったく声を発しなかったのに、くーとかうーとか言うようにもなりました。わたしにとっても、彼と心を通わせるのが通勤途中の楽しみになっていました。その反面、心の迷いも日に日に増していきました。かわいそうに、彼の毛はすごく不潔で、ツメは伸びきっています。家族の団欒も知らず、手入れもしてもらえず、ひたすら庭でうずくまって過ごしているのでしょう。でも毎日通りかかるというだけで、見ず知らずのわたしがこのことを飼い主に注意してもよいものだろうか・・・。ぬぐいきれない思いを抱えながら、彼と挨拶を交わす日が続きました。
 ある日、犬小屋はなくなり、彼の姿も見えません。ついに犬小屋を新調してもらえるのかな。新しいおうちが来るまであの子は家の中に入れてもらえたのかな。いいえ、その家は引っ越して空き家になっていたのです。ペットの処分理由で一番多いのは引越しだといいます。
 彼は新しい家では新しい犬小屋を買ってもらえたのでしょうか。これから彼と心を通わせる人はいるのでしょうか。彼も一緒に連れて行ってもらえたのでしょうか・・・。

 わたしはあのときどうすべきだったのでしょう。犬1匹幸せにすることはとてもたいへんなことです。とても勇気のいることです。そう思いませんか?人間ってちっぽけですよね。わたしたちは犬の社会的地位を向上させようとする一方で、いまだに不必要になった彼らの命を脅かしています。せめて、せめて、うちの犬は自分が幸せにする、不幸な犬はうちから出さない、それがわたしたち飼い主の絶対責任だと信じています。
 

幸せをつかんだ
犬たち

北浦清人
幻冬社
どうぶつたちへの
レクイエム

児玉小枝
桜桃書房
Yokohama,DOG RESCUE代表北浦さんの本です。人間に捨てられ傷つけられた犬、災害で飼い主を失った犬、それを助ける人間。いつかわたしたちもそのような犬に出会うかもしれません。そんなときわたしたちがすべきことも、この本には示されています。 人間によって消されていく命もあるということに、すべての飼い主は目を背けてはいけないと思います。収容された犬たちの飼い主を待つ顔、助けて!と叫ぶ顔、どうにもならないと悟った無念の顔・・・涙が止まらないのはなぜでしょうか。彼らを殺したのはわたしたちなのに。









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