アイリッシュ・セターの“はなこ”は、1歳を過ぎてから我が家にやってきました。動物病院に飼われていたのですが、引き取るときに「この子は水をガブ飲みするクセがあります」と院長先生に言われ「?」と思ったことを覚えています。ものすごく痩せていて、あばらは見ただけで本数を数えられるほど、胴の一番細い部分は大型犬なのにわたしのふくらはぎくらい。でも、こういう性質の犬種なのだと自分自身を納得させていました。さてさて、連れ帰ってみると、まー飲むわ飲むわ、2リットルの給水ボトルのほとんどを飲み干してしまいます。そして下痢。急に環境が変わったストレスかしら・・・と思ったけど、どうもそうでもないみたい。下痢もガブ飲みもちっとも治まらず、食べても食べても太りません。ある時、歩いているはなちゃんがふらふらっとしたかと思うと、急にばったり倒れてしまいました!間もなく立ち上がり、いつもの元気を取り戻しましたが、これは栄養失調に違いないと確信。栄養の吸収を行う腸が短く、食物の通過も早いため、栄養素や水分ををしっかり吸収できないうちに排出されてしまう。だから下痢と水のガブ飲みを繰り返しているのだと。それからはなちゃんに合うフード探しが始まりました。
こんなことを言うとみなさんええっ!? と思われるかもしれませんが、新しいフードを買うとだいたいわたしたち夫婦が一口味見をして、「これはけっこう味が濃いね」とか「なんか生臭いねー」とか言いながら、うちの子たちの嗜好を確かめています。はなちゃんに合うフードを探しているうち、軽く握ってみて手に油が残るようなフードはまず下痢を起こしてしまうことがわかってきました。エネルギーを取り込むにはビタミンB群が必要なことから、これらを豊富に含んだビール酵母をフードに振りかけてみたりもしました。一時は消化酵素の投与も考えましたが、しばらく経つとだんだんはなちゃんの便通はよくなり、体も少しずつしっかりしてきました。
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2003年5月
はなちゃんがうちに来た翌日
まだ不安げな表情
ガリガリに痩せていました
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それにしても、ドッグフードの良さの基準って何でしょう? 安くてもきちんとした便が出て、毎日元気に暮らせれば、その犬にとってよいフードといえるのでしょうか?生食に変えると栄養の吸収が高まり、便は小さく体も締まってくるといいます。しかし、栄養のバランスが整った生食を毎日食べさせるのは容易なことではないでしょう。そんな食の不安への提言となる本にペットジャーナリスト坂本徹也さんの「ペットフードで健康になる」があります。
わたしはペットフードにはいつも不安を拭いきれないでいました。というのも、農薬漬けで輸入される野菜やそれを飼料として育った家畜の肉、狂牛病などのニュースが報じられるたび、人間の食の基準に適合しないこれらの食材がペットフードに回っているのではないかと真っ先に考えてしまうのです。しかし、この本に示された事実には、それ以上のショッキングな実態がありました。轢死した動物や安楽死させられたコンパニオン・アニマルの遺体も原料に・・・ということは、多くの犬・ネコは共食いをしていたということなのだろうか? わたしたち夫婦はドッグ・フードの味見をしながら彼らを食べてしまっていたのか??? ――以前、ある講義で獣医さんから「牛の肉骨粉を牛の飼料にしている、食物連鎖を無視していわゆる共食いをさせているから、狂牛病なんかが発生したんだ」と聞いたことが思い出されます。――そして、これらの動物、家畜、穀物、残飯などを高温で処理し、栄養素も何も壊れたような状態から再加工した、いわばカスのようなものがフードとして流通しているのだというアメリカ・カナダの報告が紹介されています。これは海外の話・・・とはいっても、フードの多くが輸入されていることを考えると、我らが日本の犬たちに関係ないワン!とは言っていられません。確かに、散歩中に放置されたフンなどを見てみると、これは○○社の××フードだな、なんてわかるものもあります。なぜわかるかというと、色や質感がもとのフードにそっくりだから。消化したあとも状態がほとんど変化しないというのはどういうことなのでしょうか!?
そんな現実が報じられる一方で、「ペットフードで健康になる」では坂本さんが日本中を探して回ったという信頼できるペットフードメーカーも紹介されています。それによると、本当に犬の健康を考えたフードを作るにはやはりそれなりのコストがかかることがわかってきます。これらのフードはホームセンターなどで大袋販売されている売れセン商品よりもずっと高いお値段です。確かに、食費がかかるからと安いカップメンだけを家族に食べさせるわけにはいかないのと同じように、犬たちにも極度に精製・加工された安価なフードだけを与え、健康に長生きしてほしいとは望めないのではないでしょうか。
我が家でもメインは市販のドライフード。トッピングとして野菜や穀類などを加えて食べさせています。それでも毎日ごはんの時間には目を輝かせ、文句を言わずに完食してくれる我が家の犬たちを見ていると、ちょっぴり切ない気持ちになります。
わたしの親しい犬仲間に、変わった経歴の方がいらっしゃいます。もとはサラリーマンだったのですが、愛するワンちゃんの食物アレルギーをきっかけに調理師免許まで取得して、犬のパン屋さんへと大変身。今ではドッグ・ガフェを経営し、人も犬も安心しておいしくいただけるパンやケーキを作り続けておられます。オーナー店長の荒木さんはさすがに一大決心をされてこのお仕事に飛びこんでこられただけあって、食に対する探究心・向上心は人一倍!こちらで提供されるお食事は本当に雑味がなく、わたしたちが普段何気に食べている食品が合成調味料で味付けされ、たくさんの添加物が入っているんだなーということを感覚的に気づかせてくれます。だからたくさん食べて満腹になっても、すーっと吸収されてたちまちおなかがすいてくるんです!体が「あー、無駄なく吸収できて楽チン!もっとちょうだい!」といっているかんじ。そのことを荒木さんに伝えると、「長くなりますよ!」という前置き付きでこんなメールを返信してくださいました。
「チャック君(荒木さんの愛犬)が我が家に来たのが約5年前、それまではワンちゃんはペット・・・という考えしかありませんでしたが、1週間経ち、1ヵ月経ち、1年経つうちに家族になっちゃったんです。そんなチャック君があるメーカーのご飯を食べるとボリボリ体を掻きはじめるようになりました。なぜかわからないので病院に行くしかなかったのですが、ある日食べ物アレルギーだとわかったんです!でもその食べ物というのがわたしたちがよく食べている小麦粉、卵、鶏肉といったごく普通の食品、本来ワンちゃんは小麦粉を使ったものが好きなんですね。(わたしたちもパンやクッキーなどをよく食べますよね) わたしたちにも安全な、化学薬品(保存料や合成着色料など)が入っていない美味しいパンやクッキーを・・・と考えていた矢先だったので、その考えを実行に移すべくわたしは走り始めました。
まずは食物の知識をつけるために勉強!・・・で、資格が必要かと思い、調理師免許を取ったんですが、ワンちゃんの食べ物は資格も規制もほとんどないんです。驚きました!! ますます良くない・・・と思い、パンやクッキー、ケーキの研究を始めました。(うんうん、わたしと同じ!)
飼い主さんが、食べているパンなどをワンちゃんにあげている光景を見かけますが、勉強していくうちに、普通パンには砂糖、塩、保存料などが入っており、それがワンちゃんにはあまり良くないこともわかりました。ワンちゃんと一緒にいられる年数は長くても20年はないのですよね!! これらの食品は毒ではないのですが、人間と同じように成人病が出て、わずか8年くらいでダメになってしまうこともわかりました。でも、自分たちが食べているパンを欲しがるワンちゃんにはついついあげてしまいます。ならばワンちゃんと一緒に食べられる健康でヘルシーなパンやクッキーを作ろうということに決めたんです。当然チャックにも作るぞー!!! で、卵や小麦粉を使わないで作る方法を研究。
そしてネットで始めた犬のパン屋さんHARU工房。実店舗を持ったほうが当然よいのですがその当時はサラリーマン!でもさすがにチャック君のこともあったし、食べ物アレルギーで悩んでいるワンちゃんや子供さんも多い。当時災害で困っているワンちゃんたちがたくさんいることも知り、わたしは自分なりに実現する決心をしました。そして、ついに川崎にDOG CAFE BREADをオープン!ワンちゃんや子供さんが卵や小麦粉のアレルギーで大好きなお菓子を食べられないのはかわいそうです。人間の子と犬を一緒にするな!という人がいるかもしれませんが、オーナーさん(ワンちゃんのパパさん、ママさん)にはおんなじです。どちらもかわいいのです!だからアレルゲンがわかればそのアレルゲンをカットしたパンやケーキを作って食べてもらいたい、そして喜んでもらいたいです。
災害で困っているワンちゃんたちがいたら、お店を休んででもこれからは救助に行きたいですね!!」
荒木店長いわく、「まだまだ伝え足りない」そうです。そんな店長の思いに共感していただいた方はぜひワンちゃんと共にDOG CAFE BREADの味を体験してみてください!地方配送もされています。(予約販売)
ペットジャーナリストとして業界の現状を多岐に渡り伝え続けておられる坂本徹也さん。愛犬のアレルギーから同じような苦しみを持つ犬や子供たちに安心して食べられるパンやケーキを提供する荒木店長。方法は違っても、皆、犬(動物)たちの健康と幸せを願い、わたしたちと彼らがより良く共生していけるよう、ひとつの目的に向かって走り続けているのだと思います。わたしも彼らとともに走っていきたいと思います。
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