メタボリックシンドローム・・・・・・最近よく聞かれますよね、この言葉。内臓脂肪症候群、脂質代謝異常ともいわれ、皮下よりも内臓に脂肪が蓄積し、なおかつ肥満、高脂血症、高血圧症、高血糖症といった症状が重なった状態をさします。運動不足や過食によって内臓脂肪が蓄積した人が高血圧や高血糖といった危険因子を遺伝的に持っていると、動脈硬化や心筋梗塞を引き起こすリスクが高まるそうです。見た目太っていないけどなぜか体脂肪率が高いという人は内臓に脂肪が蓄積しているのかも。ちなみにどういった人がメタボリックシンドロームに診断されるかというと・・・
(ご自身の健康診断書をご用意ください!)
ウエストの周囲が男性85センチ以上、女性90センチ以上で、次の①②③のうち2項目以上に当てはまる人
①血清脂質 TG150mg/dl以上 HDL40mg/dl未満のいずれかまたは両方
②血圧 収縮期130mmhg以上 拡張期85mmhg以上のいずれかまたは両方
③空腹時血糖値 110mg/dl以上
あなたは大丈夫ですか?
さて、11月11日、私の所属する愛玩動物飼養管理士会神奈川県支部が主催する、イヌ・ネコのメタボリックシンドロームについての勉強会に出席してきました。人間でも話題になって日の浅い分野なのに、動物のケースなんてとても珍しいのではないかしら?そう思っていたらそのとおり、まだ一般の獣医さんにも十分認知されていないそうです。
お話を聞かせてくれたのは獣医師の荒井延明先生。先生は動物の血清分析を行っているスペクトラムラボジャパン株式会社でテクニカルディレクターをなさっておられます。この会社で行っている血中脂質詳細検査(リポテスト)は単なる中性脂肪やコレステロール値の計測だけでなく、内分泌系の診断と治療に大きく役立っているそうです。これまで動物病院での脂質検査は、総コレステロール値程度しか調べられていませんでしたが、善玉・悪玉・超悪玉それぞれのコレステロール値を調べてグラフ化することにより、単純肥満、甲状腺機能低下症、糖尿病、クッシング症候群などの状態を読み取ることができ、的確な治療へのアプローチが可能になったとのこと。今まで食事療法が中心だった治療法から、脂質代謝改善薬を使った積極的な治療もできるようになったそうです。
動物の場合、言葉で体調の不良を訴えてくれませんし、定期健康診断の義務もありませんから、どうしても症状が現れてからの対処治療になりがちです。まだまだ人間に比べてわからないことがたくさんあります。しかし、コンパニオンアニマルのライフスタイルは、野生からずっと離れ、人間のそれに限りなく近づいています。運動不足、過食、ストレス・・・・・・人間と同じような生活習慣による疾患が増えてくるということは容易に予想できますよね。ということは、メタボリックシンドロームが動物にも及んでいるとも想像できるわけです。荒井先生のお話では、心疾患、腎臓・肝臓疾患、糖尿病などの生活習慣病は、すでに犬の死因の3割を超えているとのこと!現在人間のようなメタボリックシンドロームのガイドラインは動物にはないそうですが、単なるおデブさんでなく高脂血症、高コレステロール血症といった脂質代謝異常が見られる、これが犬やネコのメタボリックシンドロームの症状なのですね。
それでは犬の場合、どのような状態が脂質代謝異常と疑われるのでしょうか。まず目視で太っているかどうかを見ること。しかしただ太っているだけでは代謝に問題アリかどうかの判断はつきません。血液検査やレントゲン、超音波検査をしたことがあるなら、コレステロール、中性脂肪、血糖の数値が高い、肝臓や脾臓が肥大している、胆泥がたまっていると言われていれば要注意とのこと。そして日頃のこんな症状、減量食なのに痩せない、脂っぽい食べ物で嘔吐・下痢をする、急に目が濁ったり見えなくなったりする、てんかん様発作が起こる・・・このような場合は脂質の代謝異常が原因となっている可能性があるそうです。特にてんかんは、命にも関わるたいへんな症状ですよね。いきなり愛犬が泡をふいて痙攣したら、飼い主さんも怖くなってしまうでしょう。参加者の中に、成犬なのにてんかんを起こすようになり、発作の頻度が短くなってきたという方がいらっしゃいました。子供の頃から発症しておらず先天的ではない、こういった場合は脂質代謝異常が原因として考えられるかもしれないということでした。
お薬を処方されるとき、ステロイド薬についても飼い主としてはたいへん気になるところです。アトピーなどでステロイド薬を長期にわたり処方されていると、インスリンの働きを邪魔して高血糖、糖尿病へと移行してしまうことがあるそうです。さらにステロイドは脂肪組織を増やしていくので、アトピー+糖尿病+肥満の三重苦ということにも。アトピー治療中にいつの間にか糖尿病を併発・・・なんてことになりたくはありません。ステロイドの多様によっても脂質代謝異常が起こるということをぜひ覚えておきたいですね。もちろんステロイド薬は最新の注意を払って投与されるものと思いますが、大食いするのに痩せてきた、多飲多尿、最近元気がない、なんてことが気になったら、迷わず獣医さんに相談ですね。
最先端の獣医療について聴講することができ、たいへん有意義な勉強会でした。最近は犬の血液型詳細検査や被毛の有害ミネラル分析など、以前はあまり聞くことのなかった検査を身近に受けることができるようになってきました。それだけコンパニオンアニマルが私たちにとって重要な存在となり、わたしたち飼い主が彼らの健康を我が身と同じように考えるようになった、ということなのでしょうか。
これはわたしの推測ですが、最初にどなたかが「人間では最近メタボリックシンドロームが深刻な健康問題になっているが、犬やネコにも同様な症状があるのではないだろうか」と思ったから、今こうして研究が進み、臨床に役立っているのだと思います。同じように、人の間で深刻化している化学物質過敏症、化学物質によるアトピーや生殖機能への悪影響がコンパニオンアニマルにも見られるのではないだろうか、そういった研究は今の獣医療の中でなされているのかという疑問を荒井先生にぶつけてみました。しかし、「個人の課題としてそういった研究をされている獣医さんはいらっしゃるだろうけど、論文などはまだお目にかかったことはない」とのことでした。残念・・・。人間でも科学的に説明のしにくいこの分野を、獣医療の側面から研究されていらっしゃる方は稀中の稀なのでしょう。どなたかこのような方面に関心の強い獣医さんがいらっしゃいましたらぜひ教えてください。
リポテストはスペクトラムラボジャパンに登録の動物病院で受けることができるそうです。ご自分のワンちゃんの行きつけの病院に聞いてみてください。11月25日発売の『愛犬の友』12月号には、荒井先生のメタボリックシンドロームに関するインタビュー記事が掲載されます。もっと詳しく知りたい方はぜひご購読ください。 |