このコラムのトップの写真(↑)、うちの愛犬はなこです。今日で亡くなってちょうど半年です。
このホームページのあちこちにはなこが登場しています。彼女はアイリッシュ・セターの女の子、動物病院の「さしあげます」の貼り紙を見て、1歳のとき我が家に迎えました。そして今年の1月31日、虹の橋をわたりました。家族として過ごしたのは5年と8か月、短い時間でした。それなのに、ずーっと前からはなちゃんと一緒だったような気がする・・・。最期の3か月余りはガンとの闘いでした。あの子がどんなふうに病気や命と向き合ってきたのか、わたしの記憶が鮮明なうちに、しっかりここに残しておこうと思います。
今回のコラムは、はなこが発病してから亡くなるまで、ブログに記した記事に加筆しながらたどっていこうと思います。、親ばかかもしれませんが、あの子のやさしさと最後の輝きをお伝えできれば幸いです。
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はなちゃんはとってもかわいくておかしな子! 大型犬なのに心は子犬、いつもわたしたちを笑わせてくれます。人が大好き、動物大好き、誰とでも仲良くなっちゃう。天真爛漫で元気バリバリ! しっかりもののおねえちゃん犬 もも(MIX)とふたり、うちのかわいい娘です。
2頭は仲良しというより、親分と子分みたいな上下のはっきりした関係でした。たとえば、用心深いももは、初めて食べるものには先に手をつけず、はなちゃんが食べる様子を見てから食べ始めます。
「これ食べてみなよ。」
「うん、いいよ、おねえちゃん。」
みたいなかんじ。(笑)
若いころ病気知らずだったももですが、シニアの域に達してからは立て続けに乳腺腫瘍を発症し、昨年、一昨年とつづけて手術を受けました。二度目は蓄膿症になりかかっていた子宮も一緒に摘出。おなかを切った親分をいたわり、いつものやんちゃぶりを控えて心配そうにそっとしてあげていたはなちゃん。
「はなちゃんはいつも元気だね。健康がはなちゃんの取り柄だね。」
ニコニコ笑顔、しっぽブンブン! |
自宅で教室を開いている我が家では、生徒さんが来るとまずはなちゃんがお出迎え。ももちゃんも続いてお出迎え。ワンワンたいへんな歓迎ぶりで、わたしが「いつもうるさくてスミマセン」と生徒さんに頭を下げるのがごあいさつ。せっけん教室に犬がいるなんてある意味とんでもないことですが、カンジンの実習を邪魔することは一度もなく、ソファの上からじーっとこちらを観察、ぐーすか眠っていたかと思うと実習が終了する頃に目覚めて、生徒さんに甘えたり、「遊んでよ~!」と駄々をこねたり。
ちょっと問題児なんだけど、憎めない子。みんな「しょうがないな~」と思っていらしたと思います、ペンを執る手をとめてはなちゃんをかわいがってくださいました。
この子がガンになるなんて、想像もしてなかった・・・
もものホルモン系の症状も落ち着いてきた昨年10月半ば、会社から帰ってきた夫がいつものように2ワンをヨシヨシしているとき、はなちゃんの右あごの下に小さな塊を見つけました。少し前にはなかった塊。一瞬いやな予感が頭をよぎりました。
「病院に連れていかなくちゃ。」
そしてその予感は徐々に確信になっていき、決定的な事実としてつきつけられることになりました。
最初に受診してから検査結果が出るまでの3週間、何も手につかず、考えもまとまらず、向こうの世界に引っ張られていこうとするはなちゃんを、「だめー!だめー!」っと必死でつなぎとめるような心境でした。日に日に食が細り、嘔吐、下痢を繰り返すようになり、唯一、鮭缶だけで命をつないでいる状態。 「鮭缶?」と思われるかもしれませんが、手作り食もドッグフードもまったく受け付けず、とにかく食べてくれるものなら何でもという思いで、やっと少しだけ食べてくれたのが鮭缶だったのです。
ようやく出た診断は悪性リンパ腫。やっぱり・・・。それも薬物の効果が出にくいT細胞性とのこと。結果は最悪でした。でも、根拠のない期待感が消えて、やっと本当の病気と向き合うことができたような気がする!
生徒さんやお客様からの励ましが、わたしたちのエネルギーでした。
患犬がどのように余命を過ごすことになるのかは、飼い主の決断にかかっています。最近のガン治療は日進月歩ですが、大きく捉えて3つの治療法が基本であると獣医さんに説明されました。ひとつは放射線治療、ふたつめは抗がん剤による化学療法、3つ目はステロイド剤。放射線治療と抗がん剤は直接ガンを攻撃できますが、副作用が大きく、入院しながらの治療となる場合もあり、一緒に過ごせる時間は制限される可能性があります。3つ目のステロイドは、抗ガン剤との併用で効果が高まるそうですが、単体でガンそのものを消滅させることは難しい。しかしステロイドだけでもQOLの向上はみられるとのこと。あくまでもこれは現代西洋獣医学での治療方法であって、代替療法などもあるわけですが・・・。
放射線や抗がん剤による治療は、特に大型犬ではかなりな費用になります。薬物の効果の出にくいT細胞性リンパ腫であること、これからの治療は延命と捉えなければならないこと、治療方法のこと、費用のこと、厳しい現実に大きな責任・・・何もしなければ数週間、それとも数日でこの子は亡くなってしまうかもしれない。手術でガン取り除くことはできない。自然にまかせるのか、苦しまないことだけを望むのか、何がなんでも延命なのか、それともあきらめないで徹底的に寛解を目指すのか? はなちゃんはわたしたちに何を望むのかしら?
―できるだけ、最期のときまで、普通の暮らしができるように―
―苦しみや痛みは少なく短くしてあげられるように―
わたしたちがはなちゃんのため、最優先にしようと決めた選択です。
その夜、
「神様はいじわるだね、こんなにいい子をガンにするなんて・・・」
はなちゃんを抱きながら、ぽつりと夫がつぶやきました。
2008年11月7日のブログより
『遺伝子のスイッチ』
1か月ほど前、アイリッシュのはなちゃんの右顎に、ごりっとする塊があるのに気付きました。リンパ腺が腫れている・・・どうしたんだろう、顎のあたりは毎日触るところなので、突然触ってわかるものができたのはおかしいねと、次の休みに病院に連れていくことにしました。まさかリンパ腫じゃないよね、と思いながら。
ところが、獣医さんの見立てではリンパ腫の可能性があるとのこと。できるだけ早く切除・生体検査をということで、血液検査してみると、白血球の数値が異常に低く、このままでは全身麻酔が難しい状態でした。1週間抗生剤を飲ませて、ふたたび切除のため血液検査をすると、白血球の数値は改善しましたが黄疸の傾向が・・・やはり麻酔はかけられません。今度は胆・肝改善薬に変えて1週間、このあたりから、下痢が続くようになりました。
3度目の正直と訪れた翌週、白血球の数値はまた下がり、肝機能もあまりよくない、他のリンパ節にも腫れが見られたので、全身麻酔での切除は断念し、ニードルバイオプシーに切り替えて最新の遺伝子検査を受けることにしました。この検査ではリンパ腫かどうかの診断のほかに、T細胞系とB細胞系どちらのガンであるかがわかり、その後の治療の方針が立てやすくなるということでした。
とはいっても、十中八九リンパ腫であることは、この時点でもうわかっていました。我が家にある何冊かの獣医学本にも、ネットに出回っている情報や飼い主さん闘病日記などでも、はなちゃんのガンは疑いなく、治療法や経済的なことや余命までも、獣医さんのお話を伺う前に察しがついてしまいます。
数日のうちに食が細くなり、食べさせるのに苦労するようになりました。高脂肪・低炭水化物がガン療法食の基本ですが、本来なら嗜好性の高い脂肪類も、あまり食べてくれません。
これはきっと遺伝子のスイッチが入ってしまったに違いない!!
なぜはなちゃんが? 何とかしてあげたいのにどうすることもできない、はなちゃんがいなくなったらどうしよう??? この不安な気持ちは言葉には表しきれません。
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昨日、正式にリンパ腫である旨、告知をうけてまいりました。覚悟はしていましたが、飼い主としてはたいへんつらい宣告です。そしてすぐに、今後どのような方針で治療にあたるかを決めなくてはなりません。
「何もしなければ年内もたないでしょう。でも自然のまま何もしないと決める飼い主さんもいらっしゃいます。」
自然がいちばん・・・いつもはそう思うわたしでも、今、何もしないでこのままはなちゃんを逝かせてしまうことはとうていできない! でも時間をもとに戻すことはできないのです。無理な延命やつらい治療はせず、できるだけ普段の生活を一緒に送れるように、痛みや苦しみを少なくしてあげられるようにと、わたしたちは望みました。不思議とはっきりした診断がされたことで、今までのもやもやした気持ちが薄れ、飼い主として進むべき方向が自覚できたように思いました。はなちゃんの命ある限り、心も体も満たされるように看護をしていきたいと思っています。
ごはんをモーレツにがっついて食べるはなちゃんに、なんてお行儀の悪いことかと、仕事中でもトイレでも、どこでも金魚のフンのようについて来て、なんてお邪魔虫なんだろうと、半ば困っていたことが今見られないのは、寂しいです。でも、毛並み良く、見た目はピカピカ、お散歩に行ってもこの子がガンだなんてわかる人はひとりもいません、今のところ・・・
飼い主なら誰でも避けて通れない・・・ はなちゃんには、犬のこと、人間のこと、命の尊さのこと、いろいろと気づかせてもらってきましたが、今改めて大切な何かを知らせてくれています。
わたしたちははなちゃんがうちに来てくれて本当によかった、その気持ちは今までも、これからもずーっと変わりません。
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